アートドキュメント23回目は、現代美術家 五十嵐彰雄氏の個展を開催します。作家は1970年代を起点に、欧米の現代アートの影響を受けながら、紙やキャンバス全体を鉛筆や油絵具で塗りつぶし、あるいはそれを削り取って、「描くこと」自体を問いながら「物質としての絵画」を模索し続けています。そうした行為や思考が蓄積した画面は「時間の集積した絵画」とも称され、国内はもとより、東洋的な感性を醸し出す作品として海外でも高い評価を得ています。
また福井の前衛的な芸術運動を展開した北美文化協会の作家の1人であり、一貫して絵画の方法論を追求し、独自の絵画空間を確立してきました。本展では初期の油彩画をはじめ、70年代の紙のドローイング、80~90年代の白い絵の具が積層した油彩画、2000年以降の削られた絵画など、シリーズごとに年代を追って約100点を展示します。他にも、着想の発端になったオブジェと共に、イーゼルや机といったアトリエの一部を再現するコーナーや、作品構想のコンセプトを立体化した野外作品も出品します。60年近くにわたる五十嵐氏の絵画再考の軌跡を、多岐にわたってご紹介いたします。
1938年福井県武生市(現:越前市)に生まれる。1960年福井大学卒業。1964年第8回シエル美術賞展(東京・京都)に出品。土岡秀太郎の創立した「北美文化協会」に1966年より所属し、73年まで北美グループ展に参加。70年代を起点に、欧米のミニマルアートやコンセプチュアルアートに刺激を受けながら、紙に鉛筆のドローイングを繰り返し、画面を黒く覆いつくす作品を発表。80年代以降、絵画的イリュージョンを排除するような「ホワイト・ペインティング」を開始し、白い絵の具を塗り重ね、積層する筆致の痕跡を追求するようになる。1976年「ART NOW‘76」兵庫県立近代美術館、「シガ・アニュアル’86―多義的な表面」滋賀県立美術館ほか、福井県立美術館、富山県立近代美術館など多数のグループ展に参加。アメリカ・イギリス・オランダなど海外での発表を重ね、その根底に流れる東洋的感性が高く評価されている。2000年以降、画面をサンドペーパーで削り取り、露わになったキャンバス地を見せる「物質としての絵画」を展開している。
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